312891 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

chapter13

LastGuardian

chapter13「Redona」

月影市ウィルムマンション付近以外に、もう1つの魔法陣が展開されていた。

オローズ「・・・降臨の魔術式は組みあがった・・・。
     後は、ヒュルイエを目覚めさせるだけだ」

月影市のゴミ処理場に、総勢12人の黒い影があった。
直径20mほどの巨大な魔法陣を囲んでいる。
その中心には"天鳴石"の姿があった。

アギト「こうやって、12人顔を合わせるのも久しぶりですね」
リリアム「皆アタシらがコレ見つける前にくたばっちまったもんな」
オローズ「コレが終わったら、また12人で、シュナイガーを――」

その言葉に、11人全員が頷く。
そして、オローズが右手を挙げる。

オローズ「さぁ、来たれ!!
     天鳴の名に、再臨を刻ませよ!!
     来い、ヒュルイエッ!!」

一瞬の沈黙。
しかし、1秒後には、天鳴石が凄まじい光を放つ。
地面に刻まれただけの魔法陣が、白く輝きだす。
魔法陣内の空に暗雲が立ち込め、稲光が走る。
ちょうど、地面に描いた魔法陣の真上のみ、雲が割ける。
そして、底からドス黒いダイヤモンド状のものが現れる。

ヒャイム「あれが―――」
アギト「天鳴の・・・再臨のヒュルイエ―――」

ヒュルイエはゆっくりと地面に降下してきた。
その塊が降りてくる光景は、まさに隕石の降下に等しかった。
そして、漆黒の塊が、地面に、描かれた魔法陣に付いた瞬間。
視力が一気に低下するほどの眩しい光が放たれた。

12人、一斉に目を隠す。
イクトゥーらが、次に目を開けた時には、ヒュルイエは花のような姿をしていた。
いや、むしろ花以外に例えようが無い。
その漆黒の花びらの内側は、血の色のような真紅だった。
いたるところに、様々な魔法陣が刻まれていたり、浮かんでいたりしている。
漆黒の花は、ゆっくりと動き始めた。


一方、月影ウィルムマンション玄関付近では、激戦が繰り広げられていた。
戦法は、レドナとカエデが最前線にて接近戦。
ロクサスは後方で援護魔法攻撃。
フィーノも後方にて回復。
しかし、ヒドゥンもこの4対1という差を、力で埋めていた。

大剣と大剣がぶつかり合う音が耐えない戦闘区域で、ヒドゥンは突然とまった。

ヒドゥン「・・・・ふっ、目覚めたか"再臨"――」
レドナ「な、なんだって!?」

ヒドゥンの一言で、さっきまでの戦闘区域に沈黙が流れた。
鼓膜が、さっきの爆発音や金属音の余韻でキンキンなっていた。

カエデ「ちょ、ちょっと!再臨が目覚めたって・・・」
ヒドゥン「さぁ、倒しに行け、レドナ」

質問には答えず、ただ理由も無い正論をヒドゥンが言う。
しかし、次のヒドゥンの一言は、答えよりもはるかに価値のあるものだった。

ヒドゥン「あれは、イクトゥーにとって何なのか考えろ・・・」

それだけを言い残し、ヒドゥンは消えた。

ロクサス「あ、また逃げやがって!!」

ばつの悪そうに、ロクサスが言う。

レドナ「イクトゥーにとって・・・ヒュルイエは・・・」

レドナは、その言葉の意味を必死に考えた。
しかし、少ししてレドナは大きく首を振った。

レドナ「ちっ、考えたってしょうがねぇ。
    今はヒュルイエを止めに行くぞ!」

その言葉に、3人は頷いた。

フィーノ「そういえば、さっきから月影市のゴミ処理場から大きな魔力反応があります」
カエデ「ゴミ処理場なら、向こう側の裏道使えばはやく着くよ!」

そういって、ビルとビルが入り組んでいる人1人通れるかどうかの場所を指差した。

ロクサス「ま、待ってよ!
     その前に何処か隠れないと、魔法陣権限者のヒドゥンがいないから・・・」

見ると、足元の魔法陣が、どんどん消えていっている。
魔法陣を展開したのはヒドゥン。
その本人が消えてしまえば、魔法陣は自動的に消滅し、元の世界とリンクする。
4人は、急いでマンションの中に隠れた。

魔法陣が消滅し、元の世界とリンクした世界で、レドナ達は驚くべき光景を見た。
なんと、町中に聞き苦しいノイズが走っている。
思わず、フィーノは耳をふさいで、地面に蹲る。

フィーノ「きゃっ!」
レドナ「コイツもヒュルイエの仕業か・・・!?」

スピーカーというスピーカーがノイズを出している。
まるで、全ての音を発する機械が怒り狂っているようだ。
町の大型液晶テレビ、ラジオ、もしかしたら、ウォークマンのヘッドホンなどからも。

カエデ「あぁ~っもう!うるさぁーい!」
ロクサス「ま、まぁ、落ち着いてよ姉貴!」

あまりの騒音に、カエデがスピーカーを壊そうとする。
それを、ロクサスが止めようとしている。

そうこうしている間にレドナは、素早くポケットから携帯を取り出して、真にメールを打つ。

===============================
title:No title
from:Akira Hoha
-------------------------------
真、ヒュルイエが現れた。
ノイズ音がうるさいと思うが、香
澄とそっから動くな!

===============================

タイトルを入れることも無く、用件だけ打ち込む。
すぐに携帯をたたみ、ポケットに入れる。

レドナ「カエデ、道案内頼む!
    フィーノ、歩けるか?」

地面に蹲るフィーノの頭が、コクンと頷いた。
耳を押さえながらも、必死に立ち上がる。

その間、メールの返事が来たようだが、それも取らずに、レドナ達は駆け出した。


月影市ゴミ処理場。
ここでも、無残な光景が広がっていた。

オローズ「な、何故だ・・・・何故だ!ヒュルイエ!!」
ヒュルイエ「グォォォォォ・・・・」

周囲に転がるのは、黒いコートであったと幽かに判断できる赤く染まった11つの物体。
それは、紛れも無く全てイクトゥーであった。
そう、オローズの力ではヒュルイエは扱えなかった。
ヒュルイエの卓越した力を扱うために必要のそれを上回る卓越した力がなかったのだ。
よって、ヒュルイエは暴走を開始し、敵味方の区別がつかず、そこに居るから殺す、という殺人兵器となった。

オローズ「クソっ!!俺たちは・・・・!!」

トライデントスピアを構える1本の手。
眼前には、全長30mほどのヒュルイエ。

オローズ「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

3又の槍が、ヒュルイエの真紅の体に突き刺さる。
しかし、ヒュルイエは一歩も動かずに、花でいう葉のような手で、オローズを叩き払った。
ゴミの山に思いっきり叩きつけられるオローズ。
気づくと、槍の先端が折れ、ただの棒切れと化していた。

オローズ「畜生!!畜生!!ちくしょぉぉぉぉぉっ!!!」

迫り来るヒュルイエに、オローズはただ泣き叫ぶことしか出来なかった。
その叫び声も、5秒後すぐに消えた。

ヒュルイエの力によって、ねじ伏せられた―――。

魔法陣を展開したオローズが死んだことにより、ゴミ処理場の魔法陣は消滅していく。
そして、ヒュルイエが現実世界にリンクする前に、新たな魔法陣が展開された。
理解できていないヒュルイエは、花びら頭を傾けた。

レドナ「余所見すんなよデカブツがぁっ!!!」

ヒュルイエの後頭部、レドナの咆哮が聞こえる。
瞬時、ガルティオンの凄まじい砲撃がヒュルイエを襲った。

ヒュルイエ「グアォアゥァァァァァッ!?」

ヒュルイエが、ゆっくりと振り向く。
しかし、その時にはすでにレドナはヒュルイエの頭上へと飛翔していた。
ガルティオンを真下に構える。
直ぐに気づき、上を見上げるヒュルイエに、ガルティオンの砲撃が直撃した。
5本のまばゆい閃光が、ヒュルイエの胴体を貫通する。
宙を一回転し、レドナは地面に着地した。

苦しみに、奇声を上げるヒュルイエ。
しかし、砲撃で抉った肉体は、どんどん自己再生していった。
だが、レドナはこのことは把握済みだった。

レドナ「今だ!!」

掛け声とともに、赤い閃光が、ヒュルイエの胴体を真っ二つに切り裂く。
切り裂いた上半身に炎が舞い上がる。
逆に、下半身が氷結する。

そう、最初の閃光は、カエデのトライヴァルの緋衣の特殊効果、高速移動による斬撃。
2発目の炎はロクサスの魔法、氷結はフィーノの魔法だ。
炎が上半身を焼き尽くし、焦げ臭いにおいが立ち込める。
一方の下半身は、カチカチに凍っている。

ロクサス「やった・・・かな?」
カエデ「たぶん、再生する可能性が高いと思う」

なおも、4人は戦闘準備を崩していない。
いつ、何が来ても対応できるよう、フィーノが全員に物理と魔法の両方に対応できるバリアを張った。
沈黙が流れた。
4人の視線は、微動だにしない2つの塊をみている。

すると、下半身の氷が、恐ろしい勢いでひび割れていった。
そして、次の瞬間、下半身部から赤い無数の触手が湧き出る。

レドナ「一箇所に集まれ!
    フィーノ、最大限で物理防御フィールド展開!」
フィーノ「了解ですっ!」

4人は一気に移動して、フィーノの張った防御魔法の中に入った。
この触手の数では、単体に張ったバリアでは防げないことは誰しもが理解できた。
赤い触手が、当たっては退き、当たっては退きの行動を何回も繰り返した。

カエデ「これどうすんのよ?」

震えた声でカエデが言う。

レドナ「ガルティオンの砲撃で一気に下半身部を吹き飛ばす。
    どうやら、アレが使った魔力が大量に散布してるっぽいからな」

そういって、顎で、フィールドの直ぐ横に転がっているものを指した。
それは、紛れも無く血塗られたイクトゥーの死体だった。

フィーノ「な、なんですかっ、これ!?」
ロクサス「まさか、ヒュルイエが・・・・!?」

驚きの声を上げる。
それにレドナは黙って頷いた。

レドナ「奴等の力で、ヒュルイエを抑えることはできなかったって事だ・・・」
ロクサス「そ、そんな相手に勝てるのかよ・・・?」
レドナ「じゃあ、ここまで来て黙って退けっていうのかよ!?
    今はヒュルイエを止められる可能性があるのは俺たちしかいないんだ!!」

強くレドナが怒鳴った。
そして、レドナはガルティオンの魔力チャージを開始した。
周囲に散布した魔力を、ガルティオンが吸収する。

その時、フィールドにひびが入った。

フィーノ「れ、レドナさん!はやく!!」
レドナ「ちっ・・・後少し・・・」

舌打ちして、レドナはガルティオンの先端に集まる魔力を確認した。
そして、またフィールドにひびが入る。
すると、カエデとロクサスが、ガルティオンの先端付近に手をかざした。

カエデ「私のレムリアの魔力使って!
    コレがあればもう撃てるでしょ?」
ロクサス「俺のも残り少ないけどっ!」

カエデとロクサスの右手から、緑色の光が流れ、ガルティオンの先端に向かう。

レドナ「2人とも・・・・」

2人は、黙って頷いた。
その時、ガルティオンに付いている排気ダクトが、ガシャンと音を立てて展開した。
チャージ完了の合図だ。

レドナ「よしっ!フィーノ、フィールド解除!!
    一気にぶっ放すぜ!!」

両手でガルティオンを構える。
フィーノは頷き、フィールドを解除した。
一気に触手が襲い来る。
レドナに向かう数本の触手を、カエデとロクサスが蹴散らした。

レドナ「喰らいやがれ!!」

ガルティオンのトリガーを引っ張る。
先端から、膨大な魔力ビームが放射される。
それは、群がる触手を一瞬で消し飛ばし、ヒュルイエとの間にあるものを消し去った。
10秒後、ビームの放射が終り、排気ダクトから、物凄い煙が排出された。

気づくと、さっきまでの触手が一本も残らず消えている。
だが、代わりに恐ろしい光景が、4人の目に映った。

ロクサス「う、嘘だろ・・・・!?」
フィーノ「そんな・・・」

向こう側の煙が晴れる。
そこには、茎の太い漆黒の花があった。
その名は―――。

カエデ「ヒュルイエが・・・」
レドナ「完全復活してやがる・・・」

さっきの砲撃を喰らっても、なおヒュルイエはそこに居た。
それだけではなく、上半身も下半身も完全回復している。
最初に出会ったときと同じ姿だ。

さすがは、"再臨"の名を持つ者。

ヒュルイエ「グォゥァ・・・・・」

黒い表面に刻まれた赤い魔法陣が、残酷に輝く。
ヒュルイエは、今笑っているのかもしれない。
腹の底から必死で出しているような低い声が、そのように聞こえた。

次の瞬間、ヒュルイエは両手を広げた。
両手の先端に、見たことの無い巨大な魔法陣が展開する。
そして、そこから赤い球体が表れる。

レドナ「まずい!散らばれっ!!」

4人は、その場から急いで散開した。
途端、さっきまで立っていた所に、その赤い球体が叩きつけられた。
その破壊力は、言葉で表現できないほどに。
1発でも掠れるだけで命を落としかねない攻撃だ。

レドナ(攻撃しても再生する。
    けど、守るばかりだと確実にこっちが負ける・・・・。
    くそっ!どうすりゃいいんだよ!!)

抉れた地面を見ながら、レドナは思った。
必死に考えようとする、しかし、物理という物が無い世界の怪物。
手の出しようが無かった。

考えている際にも、ヒュルイエのメガトン級のビンタが容赦なく襲ってくる。
考える、回避、の順序のある不規則なリズムが幾度と無く繰り返された。

レドナは、突然ヒドゥンの言葉を思い出した。

――あれは、"イクトゥー"にとって"何"なのか考えろ――

――"ヒュルイエ"は"イクトゥー"の"何"か――

――"ヒュルイエ"の"存在意義"――

――"イクトゥー"の"力"――

――"イクトゥー"の・・・・―――

レドナ「ま、まさか!!」

やっと、ヒドゥンの言葉意味が理解できた。
そして、あまりの嬉しさにニヤリと笑っていたのではないかと思う。
さっきとは、打って変わった視線で、ヒュルイエを睨んだ。

レドナ「カエデ、ロクサス、左右に展開して両手の動きを抑えてくれ!
    フィーノは2人に防御魔法のバックアップ!」

瞬時にレドナは3人に指示を出した。
その声の何処かに、勝利を確信した思いがこめられていた。
それは、きちんと3人にも伝わった。
自然と3人の顔に笑みを浮かべながら頷いたことが、それの証明だ。

カエデとロクサスは、それぞれ両手の注意を自分に向けようと我武者羅な攻撃を繰り出す。
もちろん、どんなに攻撃をしても直ぐに回復された。
しかし、それでもよかった。
結果に変わりはない。

レドナ「この解釈の仕方でいいんだよな・・・ヒドゥン!!」

返答が無いことは分かっていた。
しかし、レドナはあえて声に出して、ヒドゥンに届かぬ思いを伝えた。
自分の解釈に確信があったから――。

その思い通りに、レドナは漆黒の刃を強く握り締めた。
グリュンヒル零式、その大剣に託された神からの力。
その効力を、最大限に発揮する瞬間が訪れた。

レドナ「終わりだぁっ!!ヒュルイエ!!!」

To be next chapter


© Rakuten Group, Inc.